この夏の贈りもの
「武田さん」


「武田さん? この家にいる人は全員武田さんだから、混乱するだろ?」


「現場へ行けば武田さんはあたし1人になるから混乱はしない」


キッパリと言い切ると、住田唯人は眉を下げて寂しそうな表情を浮かべた。


その表情に胸がチクリと痛む。


こいつは、表情や声色でいちいち人の感情を弄んでるな。


当人にそんな気はないのだろうが、あたしはそう思って住田唯人を睨み続けた。


「チホ……じゃ、ダメか?」


今度は捨て犬のようなうるんだ瞳であたしを見る。


今すぐ拾って帰ってあげたくなるが、捨て犬を飼う余裕なんてあたしの家にはない。


『ダメ』


そう言おうとしたとき、捨て犬が突然目を輝かせた。


まるで目の前に拾ってくれる人が現れたような、明るい表情を浮かべている。
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