この夏の贈りもの
心躍る
到着したのは人のいない無人駅だった。


降り立った瞬間、涼しい風が頬を撫でて吹き抜けていく。


小さなこの駅で降りたのはあたしと唯人の2人だけだった。


電車が走って行くと、まるで取り残されてしまったような気分になる。


『竹丘』と書かれている地名に聞き覚えもなく、あたしは周囲を見回した。


駅の近くには大きなデパートや遊ぶ所がたくさんある。


そんなイメージがガラリと変わるような景色が広がっている。


駅の外に見えるのは田んぼと森。


時々ポツリポツリと民家が建っているが、そのどれもが随分と古いものだった。


「唯人はこんなド田舎の人だったんだね」


無人駅を出て周囲を見回し、あたしはそう言った。


「ド田舎とは失礼だな。この辺は確かに過疎地だけれど、学校がある辺りはまだ少しは栄えているんだからな」


唯人は文句を言いながらあたしの前を歩き出した。
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