この夏の贈りもの
あたしは唯人の後について歩きながら、田舎の綺麗な空気を胸一杯に吸い込んだ。


車の排気ガスや汚染された空気じゃないからか、スッと肺の奥まで入り込んでくる。


まるで水を含んでいるような冷たさを感じた。


「いいところだろ」


振り返ってあたしを見て、自信満々にそう言う唯人。


否定してやりたいところだけれど、あたしはフンッと鼻をならしてそっぽを向いた。


悔しいけれど、この綺麗な空気は文句の付けどころがない。


そんなあたしを見て唯人は軽く笑い、そして突然走り出した。


「ちょっと、なんで走るのよ!」


そう言いながら慌てて唯人の後を追いかけるあたし。


こんな場所で置き去りにされるなんて嫌だ!


「学校までは少し距離があるんだ。早くしないと日が暮れるだろ」


そう言われてあたしは太陽を見上げた。


電車に乗って2時間ほど揺られている間に、頭上まで昇ってきている。


到着するまでに日が暮れるなんて、一体どんな場所に学校があるのよ!


そう文句を言ってやろうと思ったけれど、走ることが一生懸命で言葉が出て来なかった。
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