この夏の贈りもの
あまりに綺麗な光景に思わずそう言ったとき、唯人は首をかしげて「なにが?」と、聞いて来た。


「なにがって、こんなに綺麗な景色見たことがない!」


「はぁ? チホの街にだって川くらいあるだろ」


呆れたような口調になる唯人。


「川はあるけど、こんなに綺麗じゃないよ」


時折釣りをしている人は見かけるけれど、その川の水は濁っていて地面までは見えない。


釣った魚も食べるのではなく、すぐに逃がすのだ。


「そうかぁ?」


唯人はますますわからないという顔をして水面へ視線を向けた。


そのまま川岸に座り、足を投げ出す。


それがすごく心地よさそうに見えて、唯人の隣に座ってあたしも足を投げ出した。


水面に付きそうなくらい近い場所は、気温も低い。


風が吹けばその涼しさに目を細めた。


部屋のエアコンとは違う、自然が生み出す優しい涼しさだ。


ここまで走って来た疲れが一気に吹き飛んでいくようだ。


「暑いなら、足を川につければいい」


唯人にそう言われて、あたしは目を輝かせた。


子供の頃から川遊びなんてしてこなかったから、実は密かに憧れていたのだ。


「し、仕方ないから、ちょっとだけね」
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