この夏の贈りもの
「弘美ちゃんだ……」


大空がそう呟き、歩調を緩めた。


「もう、突然走り出さないでよ」


文句を言うけれど、あたしの声なんて耳に届いていない様子だ。


大空はワンピースの彼女をジッと見つめたまま動かなかった。


彼女はこちらの存在にまだ気が付いておらず、真っ直ぐ家に向かって歩いている。


「告白する勇気は持ててる?」


そう聞くと、大空はあたしを見てそしてほほ笑んだ。


「たぶん、大丈夫」


たぶんか。


少し不安が残る返事だったけれど、今はチャンスだ。


彼女が家の中に入ってしまう前に呼び止めたい。


「大空、あたしの体に入って」


「え?」


大空はキョトンとした顔をしてあたしを見つめた。


みんなでわいわい楽しんできた大空は、人に憑依すると言う事も知らないままだったようだ。
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