この夏の贈りもの
「あたしに乗り移るの。そうすれば彼女とも会話ができるでしょ?」


「え? チホ乗り移るの?」


「そうだよ。なにボーっとしてるの」


苛立ちを覚えてそう言うと、大空は慌てたようにあたしの体の前に立った。


「そう、そのまま勢いをつけてあたしの中に入ってくればいいから」


「そんな事、僕今まで一度もしたことないよ」


「それなら、大空1人で告白しに行く?」


「それは……恥ずかしいよ」


再び顔を赤くしてそう言う大空。


「それなら、やるしかないでしょ」


どうしても晴らしたい心残りがあるのなら、それを晴らすために行動に出なきゃいけない。


なにもせずに待っているだけでは、彼女は家の中に入って行ってしまう。


「わかった」


大空は力強く頷くと、あたしの体へ向かって突進してきた。


ブワッと風を感じて、吐き気を感じる。


世界がグルグルと回っているような感覚が一瞬にして過ぎ去って行き……あたしはあたしの中から大空を見ていた。
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