この夏の贈りもの
☆☆☆

有馬が消えた後も、あたしたちはしばらくその場から動くことができなかった。


ぼんやりと、教卓を見つめる。


有馬は転生を信じていたのだろうか?


生まれ変わって夢を叶える。


その言葉は最後に咄嗟に出て来ただけの言葉かもしれない。


だけど不思議だった。


有馬なら本当にできそうだったから。


「成仏してもまだ夢見てんだな」


裕がそう言い、鼻をすすった。


「生まれ変わって教師になる。それが今のあいつの夢だ。ほんっと、無茶だよなぁ」


裕はこのメンバーの中では一番有馬と仲が良かったのだろう、その涙はいつまでも止まらない。


「あいつが教師目指すって言ったときもさ、無理だって思ってたんだ。


あんなガサツな野郎が生徒に教えるなんて、できるわけねぇって……。けど、夢をみつけてからのあいつは毎日毎日必死で生きててさ、生きてますって顔に書いてるみてぇでさぁ」


裕は思い出したように笑った。


「夢って、ほんとすげぇよな。人間1人の人生を変えちまうんだから。俺びっくりしたよ、有馬があんなに本気になって勉強を教えられるようになってたなんて、知らなくてさぁ」
< 89 / 218 >

この作品をシェア

pagetop