この夏の贈りもの
「そうです。どうしてもチホさんにお願いしたい仕事があります」


「そう言われても……」


戸惑いながらも、嬉しい気持ちが湧き上がってくるのを感じる。


誰かわからないけれど、あたしの力が必要だと思ってくれている人がいるのだ。


それはとても嬉しい事だった。


「父も祖父もおりませんので、勝手に仕事を受ける事はできないんです」


心苦しいけれど、ここは断ることしかできない。


あたしの勝手な判断で仕事を受ける事はできない。


「どうしても、ダメですか?」


ドアの向こうから落ち込んだ声が聞こえて来る。


あのイケメンがうなだれていると想像すると、言葉が喉につっかえて出て来なくなった。


『ごめんなさい。また父と祖父のいる時にお越しください』


その言葉がどうしても出て来ない。


「少し……お話をするだけでも……」


お話をするだけ。


仕事内容を聞くだけ。


勝手に仕事を受けるわけじゃないのなら、大丈夫かもしれない。


あたしの右手が玄関の鍵を開ける。


続いてドアノブに手が触れて、ゆっくりと開いた。


「話を、聞くだけですよ?」


あたしは目の前に立つイケメンへ向けて、そう言ったのだった。
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