この夏の贈りもの
逃げる事は悪い事じゃないと言う大人だっている。


そんなのわかってる。


だけど結局、自分は逃げているだけだという気持ちはいつまでも付きまとうのだ。


学校が始まればまた猫背で髪で体型を隠す毎日がやってくるんだ。


できるだけ目立たないように、教室の隅で本を読む日々。


いっそ、このまま夏が終わらなければいいのに。


そんな事を思った時だった、ノック音が聞こえてきてあたしは飛び起きた。


「誰?」


「松田だけど」


その声にあたしはドアを開けた。


翔がボリボリと頭をかきながら気まずそうな表情をしている。


「まだ寝てなかったの?」


「あぁ。明日は自分の番かと思うと、なかなか寝付けなくて」


そっか。


明日は翔が成仏する番だっけ。


「不安でもあるの?」


「不安……といえば不安なのかな? でも期待もしてる。大空や有馬が笑顔で成仏したのを見てるしな」


どうやら複雑な胸中にあるらしい。


あたしは部屋を出て翔と並んで歩き出した。
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