この夏の贈りもの
振られた理由を聞くのは野暮かと思い、あたしは桜の木を見上げた。


葉の間から月明かりが差し込んでいる。


大空はこの校庭で星空を見たって言ってたっけ。


たしかに、ここならなににも邪魔されずに星を見る事ができそうだ。


「お嬢様だったんだ」


不意にそう言われて、あたしは翔を見た。


翔はあたしと同じように葉の隙間から月明かりをみていたようだ。


「家で猛反対されたんだと」


「……そうだったんだ」


恋愛経験の乏しいあたしは返す言葉が見つからず、また月明かりを見上げた。


風が吹いて、葉が音を立てながら揺れる。


月明かりがまるでホタルの光のように糸を引いてみえた。


「結婚して幸せになってるそうだ」


「誰かから聞いたの?」


「風の噂だ」


幽霊にも風の噂が届いてくるようじゃ、言いたいことも言えないね。
< 97 / 218 >

この作品をシェア

pagetop