花一刻、〜新撰組〜
優しい一面
3人と出逢ってから、早くも1ヶ月が
経っていた。
あれから一度も会えていない。
島原は、桜の香りから新緑の香りに衣替えをしていた。
もう、どこを歩いても桜の香りがしない事に気付いた時、沖田さんと過ごした一瞬が、とても昔の事に思えた。
あれから、あたしは大した用が無いのに、
暇があれば廓(見世)の外に出て、なんとなく
あの夜にあった方々を探している様だった。
会いたいと思う程会えない。
嫌な客は来ないで欲しいと思うほど、何度も
来るのに、会いたいと思う人には会えないなんて神様も意地悪なものだ。
今日だってそう。
朝、客を見送って湯屋に行った後、茜音に
団子をとってくる、と言ってぶらぶらと
外を歩いている。
朝方の島原はどこか閑散としている。
どこかで鳥の鳴き声が聞こえる。
その鳥は大門の外の風景を知っているのだろうか。あの方々の見ている世界を知っているのだろうか。
あ。
近くの見世の屋根に、その鳥が止まる。
鳥は自由でいいな。
好きなように飛んで、いろんな場所に行って、
いろんな世界を見て…。
あたしは、この島原しか知らない。
鳥よりこの世界を知らないのだ。
あたしが鳥だったら、あの方々を
ずっと追うだろう。たとえ羽が切れても。