花一刻、〜新撰組〜
後ろから、違う男の人の声がした。
あれ、どこかで聞いたことのあるような。
とっさに後ろを振り向くと、
「ひっ…!ひじ…!」
「静かにしろ。」
なんと土方さんだったのだ。
土方さんは姿が周りに知られるのを、気にかけているみたいだった。
いつもよりも、地味な着物を着て、
あたしが名前を呼ぶのを制した。
「なんだ?女の客か?」
男はますます高揚して声を荒くする。
その瞬間だった。
土方さんが鞘から剣を引き抜いたのだ。
「この女から手を話さないと、斬る。」
低く威厳に満ちた声は、あたしが聞いてもぞぞっとした。
まるで、戦の一場面ようだった。
男はいきなりの抜刀に力を無くしたのか、
「ちっ、次覚えてろよ。」
と、道に唾を吐き捨てて大門の外へ、
走って出て行った。
「ありがとうござんす。」
すっかり腰が抜けてしまい立てない。
「大丈夫か?今大門付近ではこの様な事が
多発しているらしい。うかつに近づく
なよ。」
言葉は荒々しいがすごく優しさがこもって
いた。
でもね、こうやって道を歩いていたのはね、
あなた方に逢いたかったからなの。
せっかく逢えたのに、逢いたかったという言葉が出ない。他のどうでもいい客なら、嘘でも
逢いたかったと言って、抱きつくのに。
大切な人には本当に思ってることが言えないんだ。あたしが初めて気づいた事だ。