花の降る午後




19のあたしは男性経験がなく、性への憧れであんな夢を見たのだと言われても仕方がない。

それでもあの優しい手が欲しかったので、夜の街へあの人を探しに行った。

抱き締めてさえくれたら、あの人だとすぐに分かる。

そう思った。



だからといって、見知らぬ男に「抱き締めてください」と言うわけにはいかず、途方に暮れて佇んでいた。

そんなあたしに声を掛けて来た男がいた。

スーツを着こなし、少しだけお酒の匂いを漂わせた上品そうな男。

「どうかしましか?」

こんな小娘に敬語を使う男がとても好ましく思えた。
けれども「夢の中のあの人」だと、どうすれば確認できるのか分からない。

じっと男を見上げ、どう言葉にしようか迷っていた。

そんなあたしが物欲しげに見えたのか、男はひっそりと笑い「おいで」といってあたしの腰に手を添えた。

いやらしくないスマートな手に安心し、男に促されるまま歩き始めた。


つれて行かれたのは「夢路」という2階建ての洋館のだった。
建物は古臭く、年代を感じる。
文化遺産にでもなりそうな、風格と様式を備えたものだった。

けれども入り口に「休憩」やら「ご宿泊」と書かれた看板を見て、そういうホテルなのだと知った。



「夢路」

あの人の元へ連れて行ってくれそうな名前に、とても惹かれた。


洋館の中は

板張りの床に、太い柱。
月明かりに照らされた中庭は日本庭園。

ステンドグラスが嵌め込まれた窓。
古めかしい電話室。

見事な和洋折衷。

アメリカに憧れた明治時代の人間が建てたお屋敷のようだ。


あたしはひと目でこのホテルが気に入ってしまった。
男を見上げると、優しく微笑んでくれた。

男が受付を済ませ、2階の部屋へ・・・。


----------。


男に初めて抱かれた 夜。
男が出て行ってから、大声を上げて泣いた。



あの腕じゃない。
あの指じゃない。

あたしが逢いたいと焦がれる
あの人ではなかった。


初めて男を知ってから今日まで
こんなことを繰り返している。


二之宮 花
21歳。




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