恋のルール教えて下さい ~憧れの課長と大人の恋~
本当に、野菜と肉を炒めただけの簡単な料理とお味噌汁なのに。

葛城さんの目の前に置くと、彼は軽く頭を下げて、丁寧に頂きますと言った。

お腹が減っていたのか、あわただしく食事を終えると、彼は思いつめたような顔で言った。

「いいな。毎日こんなふうだった。疲れて家に帰って来たら、和泉がこんなふうに待っててくれたら。どんなに幸せだろうって思う」

私は、彼のために、食後のお茶を出した。

「葛城さん、そんな誰もがかなえてるのは、夢って言わないですよ。
話って何です?
そんな事を言うために、ここまで来たんですか?」

「違う。正確に言うと、話をするためじゃない。ただ、顔見に来たんだ。手に触れてもいい?」

「ダメです。ダメに決まってるじゃないですか」

彼に捕まった手を、すっと引っ込める。


「ごめん、どうしても、押さえられなくて……こんな所まで来てしまった」

「葛城さん、今日は、帰ってください」

やっぱり、部屋にいれるべきじゃなかった。

うなだれてる彼の姿を見ると、同情して彼の胸に飛び込みたくなる。


見ていると、何も考えずに彼の胸に飛び込みたくなる。

だから、葛城さんから離れよう。

食べ終わった食器を持って、キッチンに持っていく。

離れようと思ってるのに。

葛城さんも後ろからついてきた。


「和泉」

彼の腕が後ろから抱きしめてきた。

「話すこと、たくさんあったはずなのに。こうして君を前にすると、何も言えなくなる」
肩を抱いていた彼の腕に力がこもる。

首筋に唇を当てられる。

「お願い、止めて」

振り向くと、彼の顔が近づいてキスが始まった。

彼は、気持ちの切り替えが出来る人だ。


真梨香さんと別れられたら、私の事も同じようにあっけなくさよならって去っていくかもしれない。

私も、それでいいと言えるのだろうか。

このまま葛城にべったりはまってしまって、抜け出せなくなったら。

私も真梨香さんのように、苦しむだけだ。
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