雨を待ちわびて
亨さんは今、仮眠を取っている。
私と一緒にカツサンドを食べ、少し話をした。
待ち合わせていたけれど、怪我をしたと連絡を貰って、今日が駄目になった事。でも、本当は怪我したのでは無く、どうやら片霧さんが妨害した事。また近いうちに会うという事。
亨さんは、はい、と返事をするだけで何も言わなかった。
話さなくても解っている事だろうと私も思っていた。
でも、私からちゃんと話しておくべき事。
亨さんは零時を回る頃には部屋を出る。
一緒に寝ましょう、と言われそれまで添い寝をしている。
「…直さん、夜勤の時は申し訳無い。これで許してくださいね」
そう言って、時間ギリギリ迄、私にこうして腕を回し、眠っている。
亨さんは無茶な事はしない。仕事の前だという事もあって、時間の無い中、無理にシたりしない。そこは穏やかだ。言葉では難しいけど、とても充たされた気持ちで居られる。凄く安心する。
出掛ける時は、なるべく私を起こさないようにゆっくり時間をかけて、身体を移動させているようだ。
起きない方がいいからだ。
穏やかな気持ちで眠りについたのなら、きっと深い眠りにつける。一旦起きてしまうと、一人で眠り始める事が難しくなるから。……何も考え無い訳ではないから。
上手く抜け出した後で、必ずキスをしているらしい。
起きてしまうかも知れないから、様子を見ながら、それでもなるべく長く触れているらしい。
行為は直接的ではあっても、思いは直接的では無い。言葉として聞かなければ解らない。
でも、触れた唇から温かい気持ちが伝わって来ているのだろうと思う。だから更に深い眠りについているのだろうと思う。
朝になれば真っ直ぐ9時過ぎには帰って来る。
以前は病院でシャワーを使って、簡単に着替えて帰って来ていたようだけど、今は、まず、終われば帰って来る。
お風呂は家で入る。
そして、朝ご飯を私と食べるのだ。
そして、お昼前迄、眠る。
「直さん、…おいで」
そう呼ばれた時は、亨さんが一緒に寝たい時で、…つまり、それはシたいという事。
明るくて、こんな時間に…なんて、恥ずかしくて抵抗はある。
だけど、カーテンを閉め、部屋の明かりを消してする事に慣れて来た。
部屋を訪ねて来る人は居ないから、その事にはドキドキしなくて大丈夫だよって言う。そのドキドキは心配無くても、ドキドキはする。
誰か来たとしても、出られないけど…。
亨さんは、いつも聞く、言う。
大丈夫?大丈夫だから、って。大丈夫って言葉をお守りのように沢山耳にする。
大丈夫、大丈夫…。そして、俺が居るからって。心の中に居るからって。
罰が当たらないか、怖いくらい…。
「大丈夫、幸せだと思う気持ちに罰なんか当たらない。幸せだって、思っていいんだから」
「…はい」
辛かった分、この幸せが消してくれているんだと、思う事にした。