雨を待ちわびて
いつものように仕事を終え、バスを待っていた。
亨さんの部屋に帰るバスは、午後から本数が減っていくから、乗れなかったら中々待つことになる。
音はしていなかった。
黒い車に赤色灯が回っていた。
…事件?
近付く事はせず、バス停から遠目に見ていた。
強盗…?そんな言葉が聞こえて来た。
事件なんだ…そう思ってドキドキした。
全身黒ずくめの背の高い人。そして、黒ずくめの人より少し低くて人懐っこい顔の人。
その並びに何か感じた。
顔が見えた。片霧さん…、と多分石井さんだ…。
あ、どうしよう。
バスはまだまだ来ない。
不自然かも知れないが、身体を捻って背を向けた。
「……あれ?…直さんじゃないですか?あ、直さんですよ、片霧さん。
あそこ。バス停に居る人。間違いなく直さんです」
「ああ…」
ああって…そんな渋い声出しちゃって…。
「直さ…」
「止めろ。…こっちは仕事中だ。あっちだって帰るところだろ」
「でも、ちょっとくらい…」
「中途半端な事はするな。こっちだって話せる状況じゃないだろうが」
「そうですけど、この間の事も謝りたいのに」
「また会うんだろ?」
「はい。…あっ!いや、いいえ」
「フ、どうせそんな事だろうと思った」
「未だ、何も決まって無いですからね。僕、今、忙しくなったし」
…。
ああ、俺らに約束なんて無理な話だ。
約束したら…何度も何度も、仕切り直しをしないといけない。ずっと気にしないといけない。約束はガッカリさせるばかりだ。
直、仕事は順調そうだな。
「おい、仕事だ仕事。おっさんに状況を聞かないと始まらない」
「…はい。……直さん…居るのに…」
「石井!キュンとした小犬みたいになってるぞ。
遺体がある…。気を引き締めろ」
「…はい」
直さん。片霧さん、元気ですからね。見ての通り、空元気ですけど…。
「おい!いつまで見てる」
首根っこを摘まれ、ズリズリと引っ張られた。