雨を待ちわびて
-Ⅶ-独りって訳じゃない!

この間は声を聞いた。
今日は顔を見た。

…。

どれも一瞬の事だ。

距離があって良かった。仕事中で良かった。
直ぐ手の届くところに居たなら、連れ去っていただろう。

…。

石井の奴、余計な事を…。
居る事に気が付かなければいいものを。いや、見付けても、黙っていればいいものを。
灰の中に埋もれさせていたモノが、ブスブスと燻り始め、赤い炎になりつつあった。

直…。変わらず目を引く女だ。
派手な格好をしている訳ではない。むしろ、シンプルで落ち着いた格好だ。
…血色もいい。痩せて病んでいる感じもない。
いい顔つきをしている。

…先生のお陰か。…そうだな。
大事にされている、安心で充たされた顔だ。

疲れ果て、己が何者か解らない、こんな事をする犯罪者の顔とは違う。
…フッ、…随分と無断で観察しちまった。石井の事は言えないな。


「おい、片霧」

「はい」

…おっさんか。

「あそこに居るお嬢さんが、あの時の事件の?」

「あ、ああ、はい」

「なるほど…、雰囲気のある別嬪さんだな。これから益々良くなる」

…エロじじい。表現が下基準なんだよ…。

「鑑識は終わりましたか?」

「ああ、終わった。…おい片霧」

「はい」

今度はなんだよ…。

「別嬪さん、こっちに来てるぞ」

「え?」

そんなはずは…無い。
振り返れば、直はもうそこまで来ていた。あ。

「直…」

「片霧さん」
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