雨を待ちわびて

「直……幸せか?夢に苦しめられてはいないか?」

あ、…、返事が出来ない。片霧さんがこんな事を言うなんて…。

「直、…俺はもう、直を抱けないのか?」

…。
ピカッ。

「キャッ」

雷が光った。部屋が暗くなる。ゴロゴロという音とザーッという激しい雨音。

「遠いな…。雷、怖いのか?」

今、片霧さんの腕の中にいた。

「はい。…あの稲光が、何だかゾクゾクして怖いです」

「そうか。直…、あの先生ともうシちまったのか?」

…なんてストレートな物言い。さっきも、抱けないのかとか、言った。言葉に詰まるような事ばかり…。
そう、この人は言葉に遊びが無い。いつも…単刀直入。答えも欲しい部分だけ知ればいい人。
まさに刑事の尋問と同じ会話なのだ。
こんな聞かれ方に答えたくは無いけど…。

「はい」

求めているモノは白か黒。結果のみ。そこに至った話はきっと聞かない。

…。

「俺のもんじゃなかったのか?」

この言葉、知らない人が聞いたら、俺様というか、強引というか…。物扱い。
だったら強く引き止めてくれたら良かったじゃない?

「……俺のものなんて言われて無いです。私に何も連絡もなかったじゃないですか…。
私は…片霧さんを好きでも、片霧さんは、心はくれないのだと思いました。全然、心が解らないもの…。
片霧さんの事…好きだから私は抱かれました。激しく抱いて欲しかったから。欲しいと言って求めてくれた事が嬉しかったから」

「それで、俺は抱けるのか。直の心はあいつにくれてやる。この身体は俺にくれないのか?」

…どういう事?感情無しで抱かれろって事?
そんな風にしか聞こえない。身体だけ…そこに気持ちは要らないって…。

「俺が今更、心をやっても直は困るだろ?
俺は惚れてる。最初から直の心も身体にも惚れてる。
そう言ったら困るだろ?」

あ………どうして。…ずっと欲しかった言葉は、今はあまりにも空しくて、切なくて。
どうしようも無くて…叩いた。
ドンドン音がするほど片霧さんの強靭な胸を叩き続けた。

「直…すまなかったな。今更言うことじゃ無かった」

シャツが皺くちゃになるほど握りしめ、泣いた。

…直、…そういえば、こんな風に泣き顔を見せた事は無かったな。ずっと辛かったはずなのに、感情的になる事も無かった…。
あぁ、…俺は居なかったからな。いつも、居ない。…直は一人だった。
例え直が泣いていたとしても、居ない俺は知らないんだ。

「直…」

抱きしめた。俺もこんな気持ちでただ抱きしめた事があったか?
感情を面に出さず、ただ直の身体から柳を消し去る事だけをしようとした。

「直…、キスさせてくれ…」

顔を上向かされると唇が触れ、食む。何度も食む。深く侵食される。
片霧さん…。
こんな…優しいキスは無かった。していいかなんて聞いた事も無かった。
いつも激しく情熱的だった記憶しか無い。

「はぁ、…直。シたい…シたくなった」

…。

……フ、…フフ。…何なんだろう。男の人って…。私、可笑しくなりそう。

「…子供みたい。ううん、大きな子供…」

「…直、…」

「こんな顔付きで、こんな頑丈な図体で…、情けない声を出さないで…」

「直…」

「私、もう…、心が壊れるような事は無いんです。強くして貰ったから」

「直…」

ピカッ。

「キャッ」

…。

「…シて」

「直?」

「片霧さんを心でちゃんと覚えていたい。だから、シて」
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