雨を待ちわびて

部屋まで送ってくれた。
何も言わず、手を上げるでも無く、私を降ろすと、車は遠ざかって行った。
片霧さんらしい。

まだ、夕方。

今の、今までの一時は何だったのだろう。
大人のつき合いを受け入れたら、こんな感じになるのだろうか?
…好きと言わず、身体だけの関係だと言ってくれた方がまだ良かった。
好きだと言った、なのに大人のつき合いって何?
何が隠れているの…。そんなの成立しないよね?…。

んん…。悩んでる私も私だ。
特に返事はしなかったけど。

あ、段ボール、被せなくちゃ。

あの人は、例え好きな感情が芽生えても、口に出したりしない人だと思っていた。
何故、今になって素直なの…。
…悪い病気で死んじゃうって、判明したとか。

…。

…刑事だから。どこか刹那主義なのかな。
だって、今会っていたのにって思っても、数分後にはどうなっているか解らない。刑事も…そんな時だって、ある。

脇腹の傷痕だって。
一つ間違えば、生きていなかったかも知れない大怪我。
だけど、そんな…守りに入る人には見えない。

よくも…こんな、考え事をしながら、ご飯が作れたものだ。ご飯もそろそろ炊ける。
亨さんももう帰って来る頃。

私と亨さんの関係はどうなっていくのだろう。

柳を消せるようにとした行為から後のものは、それとは違う。
亨さんを先生だとは思っていない。
結果としてもう悪夢は見ていないが、今は悪夢を見ないようにと、しているつもりはない。
お互いを求め合ってしていると思う。


「ただいま。ん〜、美味しそうな匂いがしていますね」

「あ、お帰りなさい」
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