雨を待ちわびて
「ごく一般のお嬢さんが、恋愛して結婚する、それと同じ事、直は出来ないだろうと思う。
大丈夫か?もっと傷つける事言うぞ。
今、直は、柳との事がありながら、何とか普通の生活が送れるようになっている。
でもな、いくら平気になった、強くなったと言っても、ふとした時にやっぱり過ぎるんだ。
何が引き金になるかは解らない。
それは、記憶が薄くなっても一生続くんだ。
受けた衝撃が強ければ強い程な。
事件の事を知らない男との恋愛は難しいだろう。
全てを打ち明けるか、…隠し通すか。隠すのは自分が苦しい。
だけど、話したら、去って行くかも知れない。
…ほぼ、去って行くな。
堪えられなくなるんだ、弱いから。
好きになればなる程、辛くなるんだよ。
幸い、今、一緒に居るのは精神科医だ。しかも、何もかも全部知っている。
その上で、居る。
世の中、度量の小さい男ばかりとは言わない。
だが、デカイ男に巡り会えてそいつを好きになれるかは、また別だ。
心は良くても、他に合わない面があるかも知れない。
まともな結婚をしようと思うな。幸せを結婚に求めるな。
幸せがみんなと同じだなんて考えは止めろ。
幸せは人それぞれ違うんだ。
結婚しない生き方だってある。
子供が欲しけりゃ作ればいいだけの事だ。好きな男の子供を産めばいい。
自分の幸せにカタチを求めるな。どんな風にしていたら幸せか…、自分の幸せは自分が感じるもんだ。
だから、恋愛にも、結婚にもこだわるな。
偽善で一生連れ添っては暮らせない。
直が笑って過ごせる生き方をすればいいんだ」
…。
「一気に言い過ぎたか?心の向くまま、生きればいいんだ。直は甘えていいんだ。
先生にも、俺にも。
俺も先生もそれでいいって言ってるんだからいいんだ」
「そんな…じゃあ、私は」
「先生が、結婚しようって言うならすればいい」
「え、だって、結婚は…」
「先生と結婚して駄目なら別れたらいい。
結婚しないで今のままがいいって言うなら、そうすればいい。先生は直を知っている人だ。先生となら、結婚も恋愛も自然に出来る。
苦しくないだろ?」
「そう言われたら、そうなんでしょうけど…」
隠し事はない。改めて話さないといけない重圧もない。
「そして、先生とどうしても駄目で、苦しくなったら、俺が居る。俺は直の事をよ〜く知っている。
それにあいつより俺の方が直に惚れている」
「片霧さん…そんなのは解んない事です」
「解ってる。辛い時は言って来い。時々、抱かせろ」
……。
いい事、言ってくれているようで、この野獣な面がチョイチョイ顔を出す。…どんな気持ちで抱かれろっていうのよ。どんな顔して亨さんの元に帰れって言うのよ。
「矛盾してる…」
「まあ、…優等生になろうとしなくていいって事だ。どこかしら、みんな駄目な部分はあるんだ」
…。
「おい、服着ろ。そろそろ送って行く」
…。
「ん?動けないのか?そんな事は無いだろ、それ程はしてない」
……もう…。好きって…惚れてるって、本当なの?片霧さんには言葉の意味が違うのかも知れない。そう思わないと…解らなくなる。
…乱暴な口調は職業柄だと思おう。
せめて、好きは解るように表して欲しい。