雨を待ちわびて

「ねえ?石井さんは下の名前は何?」

「ぼ、僕は慎人(まこと)です」

「じゃあ、慎人君ね」

「え、あ、いや、でも」

ドキドキしてしまうな。

「嫌?ほら、私の事だって、ずっと、直さんだし」

そうだ、何となく、本人抜きで勝手に呼んでいて、そのまま流れで呼んでしまっている。

「嫌とかでは無いです。…何と言うか、照れ臭いだけです」

「じゃあ、慎人君で」

「はい」

直さんが僕を慎人君って呼ぶ…。
あぁ、至福の一時…。

「ね、何にする?」

メニューを広げて渡してくれた。

「ランチタイムは過ぎてるし、ディナーにはちょっと早いし…」


「いらっしゃいませ…」

「この間は有難うございました。とても美味しかったです」

「有難うございます」

「あの…」

「構いませんよ。どちらでもお作りしますよ?
ランチでもディナーでも。メニューからお好きな物を選んで頂いて大丈夫です」

「え、本当ですか?」

「はい、大丈夫です」

以心伝心かしら。それとも、私、要求が顔に出てたかな。

「慎人君、好きなの決めよう?私ね、ランチメニューのチキンソテーにする」

「うわ、待ってください。迷うな〜。
じゃあ、僕はミックスフライにビーフシチュー付きで」

「畏まりました」

お水を二つ置いて下がって行った。

「直さん効果ですね、きっと」

「え?」
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