雨を待ちわびて

「先生は夜勤明けはいつもどうされてるんですか?」

「んー、大抵は家に居ます。洗濯したり、ちょっと片付けたり。本を読んだり、寝てみたり?
基本、ゴロゴロしてるという訳です」

「えー、見えないです」

「そんなもんですよ?他の心療内科の先生は知らないですが、僕はそうしてバランスを取っています。
きちんとするのは先生だから、です。先生じゃない時は、僕というより、俺ですから。
そうなると、僕は二人居るのかな…。生き分けていると言ったところでしょうかね」

「別人格、ですか?」

「いや〜。人格が変わるのとは違います。全くの別人格となると、乖離してしまうという事だからね」

それは危ない域だ。

「ただ気を抜いてだらけるだけだよ。きちんとするのは先生で、ボーッとするのは俺です」

「フフフ。先生のダラッとしてるとこ、見てみたいですね」

「いいよ」

「え?」

「守田さんが退院したら、先生でも患者さんでも無くなるから、いつでもおいで」

「あ…」

どうしよう、私ったら軽はずみな事を…。
でも、話す事が楽しい。

「人間と言うのは、人と話したり、関わるという事とは全く無しには生きていけないものです。
話したくなったら気軽に来たらいい…。
来ない…行かない選択も、出来るんだから」

「はい」

そうだった。行くか行かないかは自分で決められる事なんだから。

「守田さんは花言葉とか関係無く、好きな花はあるんですか?」

「私、白いバラが好きなんです。白い花びら…。それに緑の葉、茎、その二色だけっていうのが好きなのかも知れません」

「白い花びら、ですか…」

「はい」
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