雨を待ちわびて
-Ⅲ-寂しくさせたい訳じゃない

不知火元に、辛い知らせをしなければいけなくなった。


「刑事さん…」

「弁護士から聞いたか?」

…。

「…どうして何ですか。…どうして…、あいつが、…死ななきゃいけないんです?どうして…。
自分でだって、死ぬのは嫌だって言ってたのに。
どうして、有希が…殺されなきゃいけないんですか…。
犯人は、頭、…可笑しいんですか?
…何でですか。
俺は、こんな事になってしまったけど。
あいつは、大分、取り戻していたんですよ?仕事して…、買いたい物を買う気持ちだって、芽生えて来てた…。
…やっとじゃないですか。やっと…。
人間らしい生活をしてたんですよ?…。俺ですか?…。そうか…、俺のせいか…。俺が柳を殺したから、だから、母親が…。
復讐ですか…。溺愛する大事な息子を殺された、復讐ですか…」

「不知火…。それ以上、喋るな」

「有希は…もう、居ないんですよ?…」

「ああ。…有希さんはもう居ない。柳だって死んでる…居ないじゃないか」

「自業自得?って言いたいの?柳を殺したから、その罰が、俺じゃなくて有希に…って事ですよね」

「いいや。ただ、事実だ。居ないという事が…現実だ」

…。

「俺、…変な鑑定とか要らない…。鑑定なんかしなくても俺は正常です。責任能力はあります。…殺したくて殺した。柳が許せなくてぶっ殺したんです!」

「…静かにしろ。看守!もういい。こいつ、頭が可笑しい。訳が解らない事を叫び出した。連れて行ってくれ」

「俺は可笑しくない、普通だ。普通の人間だから、悪い奴を殺したんだ。苦しんで死ねばいいと思って、何度も何度も刺したんだ。アイツ、痛くても声も出せなくて、目を向いて、フーフー頬を膨らませてた。俺は…俺は、殺したくて何度も刺したんだ」

「静かにしろ!」

「刑事さん、俺、普通ですから!」

ガチャン。

不知火…、大丈夫だろうか…。早まって自死なんかしないだろうな。正常なら自分を責めて死のうとするかも知れない。…不知火は正常なんだから。
注意して見回って貰わないと。早島有希が殺されたとなると自棄になるかも知れない。
復讐は報復を呼んでしまった。
人は全くの一人では無いという事だ。
血縁に関係なく、関わり合ってしまう人間は居るもんだ。
それが憎しみを持った関わりになると、一体どこで断ち切ればいいんだろうな。
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