雨を待ちわびて
直が今日退院する。俺は迎えにも行かないし、家にだって居ない。一人で病院を後にして一人で部屋に帰って来る。
仕事だ。これが俺だ。
特別な事はしない。直だからと言って…俺に特例は無い。
【直、退院するのに悪いな。家にも居なくて】
ブーブー。
【大丈夫です。居ない事は普通の事ですよね?
その状況でも大丈夫だから退院するんです。私はどっぷり依存したりしないから平気です。
どんな仕事内容なのか知りませんが、怪我しないでくださいね。家には絆創膏くらいしか無いんですから、その程度の傷までですよ?
呼び出しが掛かって突然居なくなる。帰って来るのも突然です。知ってます、それが日常ですから。直】
…フッ、なげーよ。全く。こんな時に読んでられないだろーが…、読んでるけど。
「…片霧さん、本分、本分ですよ。そろそろいいですか」
「へいへい。…うっしゃ。石井、お前は裏に回れ。時計合わせるぞ」
「はい」
「ピッタリ3分後、突入だ」
「はい」
「よし、…行け」
「はい」
ガシャーン。
待て、コラ、ボケ…テッメェ…ガシャーン。……。
「××××、確保!解ってるな?殺人容疑で連行する」
「ふぅ…ただいまっと」
俺ん家だろうが…。
声を潜めて足音を立てないなんて、…全く、…どうかしてるぜ…。
でも…直が寝ているからな。
「直…?」
お、居た居た。新しいベッドに寝てる。
約束通り、ちょっとだけ大きくした。シングルからセミダブルに格上げだ。
…二人なら丁度いい。逃げられないぞ?
…風呂、入って来るか。