雨を待ちわびて
「直、家族は居るのか?」
立ち入った話だ。
「…居ます。でも、…居ません」
柳とあんな関係性になってから、実家とは私から連絡を取らなくなった。
適齢期と言われる年齢を越え、結婚の話、付き合っている男性の話、どうなのか、聞かれるばかりで。…うんざり。私は、…それどころでは無かった。普通の会話をする気になれなかった。
元気にしてるの?なんて聞かれても、元気だと応えられないから。
もう、まともな恋愛も…まして結婚など、出来ないと思っている。どんなにお膳立てされようと、調べられてしまったら、発覚してしまうだろうから。
それを、お付き合いする度、先に相手に話せる?…話せないなら隠し通せる?そんな恋愛は出来ない。
だから、親からも離れたかった。
「ずっと連絡を絶っています」
「そうか」
「片霧さんは?」
「俺か…。俺は天涯孤独だ」
「…ごめんなさい、そんなつもりで聞いたのでは無かったんです」
「ん?いや、いい。嫌なら応えてない」
「でも…」
「死んだんだ。昔の新聞とか、調べれば載ってる。…一家…惨殺って、な」
あ、…、…。
「ごめんなさい…」
「いいんだ。…俺は…居なかったから、一人、生き残りだ。…金持ちの家でも無いのに…たまたまだって、さ。
窓の鍵が開いてたからって…侵入して。…顔を見られたからって。
俺は居なくて…その日帰ったら…。
雨上がりの…蒸し蒸しした、くそ暑い夏の日だったよ」
家は血溜まりだった。血の匂い、覚えてる。
「片霧さん…」
「ん?悪い、想像させてしまったか?悪い。ごめん。大丈夫か?」
腕の中で抱きしめられた。
「あ゙あ゙ー、こんなとこが無神経だな。余計な事、何も考えるな?俺なら平気だから。どんな状況も、まあ、運命だ。納得いかなくても、受け入れるしかない。
俺は、家族というモノに縁が無かったってだけだ。それが俺の持って生まれた運命だ」
「…私…片霧さんに会えた事が、私の運命…?て、思いたい…」
「そうなのかな。そう思うなら、直にとって運命なんじゃないか?ま、出会っちまったモノは仕方ない。まあ、強運だと思えばいいんじゃないのか?俺なら直を守れる…」
「…片霧さん、私…」
「ん?」
「…ずっと、ここに居てもいいですか?」
「…んー、それなんだが」
…あ、私ったら…馬鹿…、鈍感。勢いで迷惑な事…聞いちゃった。もう、いい加減、私は私で、自分の住むとこ見つけないと…駄目って事ですよね。
「考えてたんだが、ここはマズイかも知れない」
やっぱり…迷惑ですね…。
「ここに居て、俺の連れている女だと思われると、危ない目に遭う恐れが無いとも言えないんだ。職業上と言うか、俺みたいな奴だからと言うか、…悪い奴は居るからな。だから、もっとセキュリティーのいいところに部屋を借りる」
「え?」
「そこに直は住むんだ」
「あ…ぁ」