雨を待ちわびて

それは、私、一人っでって事?

「ん?…ああ。心配するな、俺も住むから。部屋は勝手に決めるぞ?」

「あ…はい。はぁ、嬉しいです」

取り敢えず、片霧さんと一緒に居ていいんだ。

「直…。これは禁句なのかも知れないが、…直は、M気質だな」

「…」

「俺が自分勝手に決めた事に、嬉しいなんて言うのは、…虐められて嬉しいタイプなのかもな。いいように翻弄されているのに。あー、…すまん、禁句中の禁句だな」

「大丈夫です。片霧さんの言葉だから、大丈夫」

「ほら、やっぱり、な?…Mだよ。まあ…男と女なんだから、釣り合うには、どちらかが…Sで…Mだよな、どうしても。
直、そうだ。花は挿して来たのか?」

「はい、久遠先生が、後を見てくれるって。根がしっかりしたら鉢に植えましょうって、言ってくれました」

「そうか、上手くいくといいな。…久遠っていう名の先生だったんだ」

メールに確か、そんな名前があったような…。何度も話もしてるのに、…俺もいい加減だな。
先生は、先生だ。

…。

「はい。久遠亨(くどうとおる)先生です」

「へえ、とおるちゃんね。随分、親しくなったんだな」

「退院前まで、ずっと一緒に朝ご飯を食べてくれました。二人共、孤食同士だからって」

「そうか。聞いても仕方ないんだが、寂しくないか?ここに居たって…いつも一人でご飯だろ?」

一緒に飯でもどうかなんて、守れない約束は最初から出来ないし。俺は…繊細な人間と話をしちゃいけないのかもしれない。寂しいのは解っているのに、敢えて聞く事か…全く。デリカシーの欠けらも無い。

「最初からそういうモノだと思っていれば、そういうモノです」

「そうか」

「夜だって朝だって、一人が普通だと思っていれば何でもありません。そうじゃ無かった時に、お負けを貰った気持ちになれます」

「お負け?」

「はい、言葉はよく無いですけど。例えば、今夜は多分ずっと一人なんだと思って寝ていました。でも、突然、帰って来て、会えました。
それって、嬉しい事じゃないですか?凄く。
それに」

「それに?」

「それに、…こんな私を、…欲しいと言って抱いてくれました」

…。

「…欲しいもんは欲しいと言ったまでだ。それと、こんな私、って言うな。いいな?」

あ、…。ぐっと抱き寄せられた。

「…はい」

例えお情けで言ってくれているのであっても嬉しい。涙が出そう。

「俺は直の…お負けだ。ハハハ」

「片霧さんがお負けとは言ってないです。帰って来て会えた事が、です」

「フッ。まあ、いいさ。まだ通院とか、しないと駄目なのか?」

「通院と言うより、時々する、近況報告みたいなモノで、気楽に話しに来なさいって言ってました。
変わった事は無いか、病院に行くというより、井戸端会議をするみたいに話せばいいって」

「そうか。行った時は、一杯話して、解放して来いよ」

俺はわざわざ時間を割いてまで、じっくり話は聞いてやれない。

「はい。そうするつもりです」

「よし、…寝るか」

「はい」
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