雨を待ちわびて
「………直?まだ起きてるか?」
「はい」
「嫌な事だけど大事な事だから聞く。無神経だと思うだろうが…傷付ける事を承知で聞く」
寝ようと言ったくせに、聞いて確かめておきたくなった。詮索する職業が染み付いているみたいで嫌なんだが。
まだ少し汗ばんでいる直を抱きしめた。
「は、い」
「こうして俺とシていて、嫌な事は無いのか?例えば、声が嫌だとか。思い出すから…こんな触れられ方をされたら嫌だとか。同じようなされ方をする事があるとか。
俺がする事で、嫌な事は無いのか?…無理して抱かれようとか、してないのか?」
…散々直を抱いておきながら…今更聞く事か…。
わざわざ思い出させて、傷付けているようなもんだ。
俺は、…非情な人間だな。
「…」
「直?ごめん、すまない。こんな事、聞くべきじゃなかった」
……。
まずい。退院したばっかりじゃないか。また可笑しくなって逆戻りしたらどうする。
俺は、根っからの…心の無い人間になってしまったのか。
「違うんです。大丈夫なんです。声も、触れられる事も、…される事も、嫌な事は何もありません。嫌なら、…受け入れたりしません。抵抗します、拒絶します。
無理してかと、聞かれると…無理とは違いますが。
する事で……消してしまいたいと思っています。私の中の消したくても消えないモノ。それでも、消したくて、…片霧さんに消して欲しくて」
「…身体か。身体があればいいのか。いつもこうして、俺が直を抱けば、直は辛くなくなるのか」
ううん、本当は身体だけではない。それに、最初みたいに消して欲しいばかりでは無い。
「片霧さんだから…。片霧さんの身体だから、嫌じゃないんです。…片霧さんだから抱いて欲しい…。
初めては…もうどうなってもいい、そんな気持ちで居ました。それでも、この人なら大丈夫って思いました。
大丈夫っていうのは、訳の解らない、乱暴な人じゃ無いと思ったから。酷い事はされないだろうと、…知らない人なのに、どこかそう思いました。だから、何一つ、嫌な事はありません。
むしろ…」
…。
「むしろ?」
「むしろ今は…望んでいます…」
片霧さんだから。
…。
「俺が欲しくて、抱いてもいいという事か」
「…はい」
受け身でいいと言う事なのか…。
…もしかしたら、片霧さん、求めているモノは身体だけの関係なのかも知れない。
そう思われてしまうと、私は…相手が変わっただけで、やってる事は同じゃないかって……ならないだろうか。
…そんな、女だって。