雨を待ちわびて
「抑揚が無いという事は、感情が出て無いという事ですよね。やっぱり疲れているんですよ。脳が休みたがってますよ?」
「鋭い。解りますか?
あぁ…風が、気持ち良くて、今、…凄い睡魔が…来てます…俺」
確かに、全開で風が吹き抜けてますもんね。
え…。ポテッと音がしたかと思った。
椅子を隣り合わせ、座っていた私の肩に頭が落ちて来た。
…あっ…はぁ。
本当に一瞬で眠ってしまったの?
ツンツン当たる髪の毛の向こうでスースー言っている。
…寝てる。ちょっと…先生ー!
ん゙ー。困った。ずっとは無理。背もたれも無いから、直ぐに背中が辛くなるはず。支え切れない…。
このままでは腕を回して支えていても、すぐにプルプルして一緒に落ちてしまう恐れが。
うわっ。言った傍から…。グラッとした。
ド〜ン。音はしなかった。ド〜ンはあくまでそうなるだろうという雰囲気だ。
背中から落ちて、痛い…と身体を固くしたら、全然痛く無かった。
…その筈だ。
先生が庇うように下になっていた。
「はぁ、大丈夫でしたか?守田さん。一瞬でしたね。俺、記憶が飛びそうです。どうやら、睡魔が来て、直ぐの事みたいですね」
「…はい。び〜っくりしました…。はぁ。先生が堕ちたと思ったら、落ちました。
あ、先生はどこも打ってないですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫です、こう見えて身体は頑丈なんで」
確かに。上になった私が接した身体は、鍛えられた肉体の感触だった。
「私の分、重くなってしまったから、圧迫とかして肋骨にヒビとか入ってないでしょうか?大丈夫でしょうか…。お尻は?尾てい骨とか…」
「大丈夫です。ほら、……押しても痛くないですから」
う…。何だか今日は、許可無く腕を取られる日。私の掌で久遠先生の胸の下を押さされてる。
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。例えヒビが入っていたからと言っても、ここは特に何もしないところですから。自然治癒です。コルセットで固定するだけなので」
「え、じゃあ、痛くても我慢ですか?」
「はい、ちょっと咳をしただけで痛くても我慢です」
「あの、先生?」
「はい?」
「本当に何とも無いですか?ヒビが入っていたら、痛くて、仕事に支障が…」
「大丈夫だと言ったでしょ?この程度では、どうにもなりません。それより…」
「それより?どこかまずい事に?」
「はい。もうそろそろ、…俺の上から下りて貰えますか?俺がヤバいです」
「えっ」
「俺の俺が…、ヤバいです」
「え?…わっ、ごめんなさい」
…。