雨を待ちわびて
「俺にメールをくれたでしょ?」
「あ、はい」
「あれは守田さんの?」
そうだ。私、未だ削除して無かった。消さなきゃ。約束だから。
「はい。すみません。送ったら削除するつもりで、未だ消していませんでした。直ぐ消します」
バッグから携帯を取り出した。
入手してそのままなんて、変な誤解はされたくない。消すと言って、見せて貰った番号。早く消さないと。
「待って。守田さんの携帯からなら、消さなくていいです」
「あ、でも、記憶させない約束で、教えて貰いましたから」
「本人がいいって言ってるんだからいいんです」
「でも、…消しました」
今、ぽちっと。送信したものを消し去った。
「はぁ、…貴女という人は、強情な人だな」
先生はポケットから携帯を出して操作した。
ブー、ブー…。あ。
「俺の方にはあるんです。…削除などせず、ちゃんと登録しておいてください。
久遠先生でも、久遠亨でも、亨ちゃんでも、好きなようにしてください」
…亨ちゃんは無いでしょ。
「病院に来る連絡も、こっちにくれて構いませんよ?守田さんは番号を教えて困るタイプの人では無いですから。きちんとされてますからって意味です」
…言おうとしていた言葉を飲み込んだ。言われてしまったから。
「…中には誰から教えて貰ったのか解りませんが、いきなり架けて来る患者さんがいて…。患者さんですから、完全に無下にする事も出来ず…困ってしまいます」
人によって症状も違うから…。強い拒否も躊躇してしまうのだろう。
「先生?日々、癒されてますか?」
「あ、いや。んー、そうですね、明確な癒しは無いかな〜」
「あ、先生、あそこ。今、魚が跳ねましたよ?見ました?あ、ほら、あそこです」
「…いいえ。…フッ。俺の癒しは、貴女なのかも知れません。これでは逆カウンセリングだ」
「えっ?」
「貴女は俺の先生だって言ったんです」
「…先生?…。なんでも無い事、聞き流さずにちゃんと聞いてくれてるって、普通の人間には嬉しいんですよ?ああ、ああ、だけで、聞いてるような相槌を打たれても、…くだらないって、聞いてくれてないですからね。
確かに、取るに足らない話だから、聞くのもしんどいでしょうし。そうなる気持ちも解るんですよ?
疲れているから勘弁してくれ、みたいなね…。
でも先生は、仕事だから、聞いてくれてるのでしょ?」
「守田さんは、色々…察し出来る人だ。場面場面で話が出来る人です。
だから、こうして話して居る事が楽しい。
だから自然と癒されています」