雨を待ちわびて
「…明確な境は解りませんが、恋愛が未だ始まる前…、そうですね、丁度、感情が揺らぎ始める頃でしょうか…。
また会いたい、そう思えた相手には、もう堕ちていますね。気持ちは掴まれています。…中々、上手く出会えませんけどね…」
…好きな人の話になったの?
「他は良くても、話が合わない人も居ますよね?」
「はい。何もかも合う相性の人は、居るとは言いますが…。それが運命の人、とでも言うのでしょうか」
「三人居るって聞いた事あります。
何だったかな…。聞いた話だったかな、自分で何か見たんだったかな。
でも…、おばあちゃんになる迄会えなくて、やっと会えて、それも、その年齢だから会えた、合う人、って事なんですかね。それまで鈍感で気付かなかったって、無いんですかね」
「んんー。その手の話は何とも言い難いですね。
あまり思い込みが激し過ぎると、囚われ過ぎて返って良くないんじゃないですかね。どこかに居るには居るかもってくらいで、丁度いいんじゃないでしょうか」
「…そうですね。会えば解りますね、きっと。自然に波長も合うと思いますし」
「はい。少しそこに座りませんか?」
「あー、先生。疲れましたか?」
「ゔん。よく解りません。目に入ったら座りたくなりました」
「フフ、いきなり、おじいちゃんですか?」
「それすらも解りません」
「え?しんどいですか?
先生…もしかして、本当にヒビが入っているのかも。違いますかね。
でも、しんどくなったんでしょ?先生、レントゲン撮るなりして、確かめましょう、ね?」
「大丈夫です。それは無いって言ったでしょ?
何だか、何かが、急に切れたんです。…プツッとね」
「先生…」
「はい?」
「休暇は?纏まった休暇は取れるんですか?ううん、取りましょう。少し環境の違うところで、仕事を忘れて何も考えず、休んだ方が良く無いでしょうか」
「………フッ。ハハ…ハハハ。…素晴らしい。やはり守田さんは俺のカウンセラーだ。
休みたいです、守田先生。…癒されたいです」
「先生…、本当に調整して貰って、休みを取ってください」
身体を捻り、正面から両肩に手を掛け力説した。
「無理ですね…。現状、無理です」
「では、先生の疲れはどうしたら…」
「俺の心の癒しになってください」
……。
「先生…、取りようによったら素晴らしいプロポーズですね」
また肩に手を掛けてしまった。
シリアスなムードにしてはいけない。
「そうですか?」
…。
何か、心理戦をしてるみたい。
プロポーズかもと思ってしまう、私の心の状態。
そうですか?という、どちらに取ってもいいですよ的な、疑問形の揺さ振り?
「先生?」
「はい?」
「お見合いって、した事あります?」
「これはこれは、また…。ぶっ飛びましたね。
それも出会いの一つだから、その人が癒しの元になる人かも知れない、という事ですか?」
…ハハハ。付け焼き刃の先生では本物の先生には通用しないか…。太刀打ち出来ないな。
「いいかも知れませんね。相手が守田直、なら」
「え゙?」
「だから。俺の癒しは守田さんだと言ったでしょ?」
…駄目だ。グルグルするだけ。また戻ってしまった。
「はい、先生。ご飯、行きましょう」
勢いよく立ち上がった。
「お、いいんですか?納得のいく理由付けは出来ましたか?」
「いいんです。もう、いいんです。お腹が空いたんです。それが理由です」
…こうなる事も見込んでいたのかも知れない。策に嵌まったのかな…。
精神科医という者は、簡単には測れない。
心理戦では敵わない。