雨を待ちわびて
-Ⅴ-身代わりって訳じゃない

身一つで飛び出しても何の不自由もない。
元々、荷物も無いまま片霧さんの部屋に居着いていたんだから。バッグの中身があれば何とかなる。
行く当ても無いと思いながら、見渡せば見慣れた風景の中に居た。行き慣れたところに行こうとしたみたい。
気が付けばここは病院の近く。…バスに乗ったのね。


霧雨の降る中、白い建物を眺めていた。

「守田さん?守田さん、どうしました?」

え?…先生?

私…どれだけの時間ここに立っていたんだろう。

「久遠先生…」

「どうしたんです?今日は来られる予定では無いでしょ?何かありましたか?あったんですね?
そんな…色の無い目をして…良くないですね…。とにかく、このままではもっと濡れてしまいます。中に入りましょう」

「…私、今日は患者じゃないんです」

入るよう促すように乗せられた肩の手をどかした。

「解ってますよ…でも、ここにこうして居る事が、何か用があるのでは無いですか?
とにかく中でなくてもいい、濡れてしまいますから、軒先まで行きましょう、さあ…」

腕を引かれ、病院の玄関脇に並んで立ち、雨を眺めた。

「…私…飛び出したら、ここに来ていたんです。どこかに行こうとしても当てが無いから、というより無意識に来てしまったのだと思います。あそこ以外ここしか知らないから…」

「…喧嘩でもしましたか?仲良しですね…」

「仲良くなんか…喧嘩にもなっていません。…一方的です。私の我が儘なんです、間違いなく。
ただ居ればいいと言われた事に反発したんです。…何もしなくていいと言われた事は、自由でいいと言う事なんだけど…。でも。
一緒に居て、何もしないでいいのなら、どちらも一人でいいんじゃないかって…。その上で一緒に居る方が孤独なんじゃないかって。それは元々解ってる事で。そうじゃなくて、私は…ただ。
…片霧さんの気持ち…はかれなかったんです。何だか甘えられなくて、それで」

「守田さんは、どうやら、事件の事、…柳の事が、吹っ切れたようですね。だから色んな事が現実化してきた。
ここを出る時は、居るべき人間が居なくても平気だと言ってましたよね?最初から一人だと思っていたら、…帰って来なくても大丈夫だって。大丈夫だから退院するんだって。
どうしますか?刑事さんに連絡しましょうか?どちらにしても、飛び出したままでは駄目ですね。話す事はいずれ必要だ。自分で連絡しますか?病院から連絡しましょうか?」

…病院から。先生じゃなくて、病院から。

「どうしますか?刑事さんは今日は休みですか?」

「…はい」

RRRR…。

「あ、片霧さんですか?
久遠です。……ええ、心療内科の。
守田さん、お預かりしています。…はい。…解りました」

「先生…」

もう連絡してしまったんだ。

「…刑事さん、直ぐ来るそうです。良かったですね。中で待ってましょう」

…。

今帰っても、解決するとは思えない…。居ろといわれるだけ…。変わらないと思う。

「あ、守田さん!?」
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