ALONE
『兄貴!』


俺は傘を投げ捨て


水溜まりに体を埋める兄貴に駆け寄った。


水溜まりは兄貴の倒れた一角のみ鮮血に染まる。


必死に傷口を俺のトレーナーでおさえる。


それでも出血は止まらない。





兄貴!



兄貴!


死んじゃ嫌だよ兄貴!




…誰か!



お願いします!



誰か来て!




俺はそこからその場所で何を叫んでいたか覚えてない。


それくらい気が動転していた。


まだ幼すぎた俺が


目の前で起こった事に受け入れられるはずもなかった。


覚えてるのは俺の叫び声に気付いた近隣住民が救急車を呼んでくれたこと。


雨足は一層強くなる。


それでも俺が泣いていることは誰の目にも明白だったろう。


救急車が来るまでとても長く感じたが…


実際10分も経っていなかったかもしれない。


ストレッチャーに載せられる兄貴。


俺は救急車に半ば強引に同乗した。
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