ALONE
車内は隊員の無線や兄貴の心音を表すアラームで騒然としていた。


俺は兄貴の顔に触れるが


その冷たさに驚いたのを覚えてる。


徐々に蝕まれていく兄貴の体温。


『病院にはまだ着かないの!?』


隊員に俺は聞いた。


『大丈夫。もうすぐだから。』


様子がおかしい。


俺が見た隊員の顔は口ではそう言いながら


表情は不安に満ちていた。


そして隊員の制服にはいくつかの血を確認出来た。



兄貴のものではない。


もう乾き始めた血…


恐らく今日…


それもそんなに前についた血ではない。


別の人間のもの。


『お願いします!搬送受け入れを聞き入れて下さい!』


その時助手席に座る隊員が声を張り上げる。


その日




搬送受け入れを拒否されること




実に12回




兄貴は




消毒液の臭いと






騒然とした車内の中で





死んだ。
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