ALONE
吉川も泣いていた。


『もう…やめよう。


もう十分だ…。


君の気持ちはわかったから…。


それ以上やったらホントに死んでしまう。』


足元には気を失った美姫の父親。



俺は赤く染まる自分の拳を見て


慌てて自分が着ている服で拭った。


『それに…


殴っているのは君なのに…


君の方がずっと痛そうじゃないか…。


もうこんなことはやめよう…。』





遠くで救急車のサイレンの音が聞こえる。



俺は涙で濡れた自分の顔を服の袖部分で拭い



立ち上がると



無言で



停めてあったFXのもとへ駆け出した。




『ちょっと待ってくれ!』


吉川が呼び止める。



俺が振り向くと吉川は胸ポケットから手帳とボールペンを出し



何かを手早く書き記した。


書き記した手帳の部分を破き


俺に手渡す吉川。



『ここにお嬢様が眠ってる。行ってやってくれ。』
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