ALONE
『俺はわかってる。でも周りなんてものはみんな自分の言うコトに責任なんて持たない。いちいちイラついてたらキリねぇぞ?』


トオル先輩は妙に実感を込めて話す。


あぁ…


多分この人は色んなしがらみを乗り越えてる。


俺の人生経験なんか比になんないくらいの経験をしてる。


この人の器の大きさに俺は妙な安心感と尊敬の念を抱いていた。


『そんな難しい顔すんな♪コレお前もどう?』


トオル先輩は手に持っていた本を差し出す。


『いや俺難しい本はちょっと…』


『違う違う♪最後のページ見てみ?』


『…?』


分厚い本の半分ほどを綺麗にくり抜いた部分にタバコの箱がスッポリおさまっていた。


セブンスター。


兄貴が吸っていた銘柄。


『一本やるよ♪イライラした時にはちょうどいいんじゃん?』


呆れて笑っちまった。


『トオル先輩って結構ワルなんスね』


『ハ?いやいやお前に言われたくねぇし!』



笑ったのはいつ以来だろうか。


別に笑うコトを抑えてたわけじゃない


毎日イライラしてた


笑い方も忘れてた


でも今俺は笑ってる


その日俺は友達と呼ぶには恐れ多い大事な人を見つけた気がした。
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