ALONE
鍵を手に取り入念に見る男。


『…随分前の鍵だね。

ちょっと探して見るよ。』


男はそう言い残し


回収物の積まれた奥の部屋へ向かった。




『…あるかどうか微妙な線やな。』


『信じるしかないよな。今頼れるのはあの鍵だけだし…』


俺とシュウジはそう言うと沈黙した。



祈りの沈黙。



どうか残っていて欲しい。


まるで合格発表前の受験生気分だった。



5分くらい経ち



俺は沈黙に耐えられず



『悪い。タバコ吸ってくる。』


と言って外に出た。






街頭はネオンに煌々と照らされ綺麗だった。


どんないかがわしい店の看板もこの景色の一つとなれば素晴らしく思える。


街路樹には冬を待ち切れない人々のために電飾をとりつける作業が行われていた。



その時兄貴との思い出にふけった。


兄貴が死ぬ少し前の夜のこと


兄貴は俺を初めてFXの後ろに乗せてくれた。


街頭を駆け抜けるFX。


こうゆう表現は好きじゃないんだが…


あの時


ガキだった俺が見た夜の街頭は


幻想的で


まるで夢のような世界だった。
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