ALONE
先輩は当時陸上部のエースだった。


短距離では先輩の右に出る者はいなかった。


それは上級生にも。


初出場した全国大会は2位。


マスコミは新たなスターの誕生ともてはやし


記事は1位になった他校の3年よりも大きく扱われた。


周りからは期待と尊敬の眼差し。


オリンピックを口にする者もいた。


それでも先輩は言った。


『先のことは知らない。タイムなんて時の運。俺は周りが言うほど凄い奴じゃない。』


決して謙遜ではなく


ただ事実を淡々と。


そしてそう言った後笑いながらこう言うんだ。


『騒がれてるうちが花ですから♪』


先輩は陸上にそれほどの熱意はなかった。


ではなぜ走るのか?


『1番になればあの人が褒めてくれるんだよ。頑張ったね♪って。』


あの人とは澤井裕子


陸上部の顧問だった。


先輩はその人に



恋をしていた。
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