ALONE
『嫌だったのは確か。

今でもそう。

でもね…お父さんを嫌いにはなれなかった。


お父さんはね…



捨てられたの。』



彼女の母親は男遊びが激しい女だった。


父親も気付いていた。


しかしそのことを妻に咎めることはなく


平然を装っていた。


妻の愛はいつかまた自分のもとへと帰ってきてくれると。


愛していたから。




しかし妻は








『お世話になりました』



その走り書きと

自分の印鑑だけが押された未完成の離婚届だけを残して



消えた。







彼女が初めて父親と夜を過ごしたその日の昼の出来事だった。
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