ALONE
カイト
外傷ほどの自然治癒力が心の傷にはなく

どこか虚しさを抱えたまま季節が過ぎ

また春が来た。


その日

トオル先輩を見送るために俺は卒業式にいた。

来賓やら校長やらの話はくだらなすぎて忘れたが

一通りの社交辞令が終わった後

先輩が卒業生代表として壇上に上がった。


視線が先輩に集まる。


先輩は息を大きく吸い込み


静かに吐く。


そして前を見据え


話し始めた。


『この度は私達卒業生のために盛大な卒業式を開いていただきどうもありがとうございます。この場を借りまして来賓の皆様、先生方、在校生に卒業生代表としてお礼の式辞を…



っていうこの原稿もまぁまぁなんスけどね。やっぱり俺らしくねぇなぁと思いまして…』


笑っちまった。

やっぱり先輩は期待を裏切らない。

教師や来賓はザワついてる。


静かにしてくれ。


今先輩が話してるんだ。


見てみなよ先生方。


あんたらが教壇でしゃべる時


こんなにも生徒達は生き生きとした表情をしているか?


こんなにもあんた達のコトバを待ち望んでるか?


だから静かにしてくれ。





先輩が話してるんだ。
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