雨の恋路
「それでも俺は、咲希と付き合えたってことだけで満足してたし、咲希が気にするのも仕方ないって思ってた」
光に抱きしめられている腕を、あたしはギュッと強く握った。
「ある日さ、咲希を俺の家に連れて来た時、兄貴がいたんだ。咲希を見た時の兄貴の顔、誰が見ても分かるってくらい真っ赤になっててさ?俺すぐ分かったんだ。兄貴が咲希に一目惚れしたんだって」
「そう……なんだ」
「でも咲希と俺は付き合ってるわけだし、嘘つくわけにはいかないからさ。紹介しようと思った時…-」
光の顔が一瞬悲しげに歪む。
「咲希、何て言ったと思う?」
あたしは想像もつかずに首を横に振る。
「『光くんはあたしの弟の友達で……。今日は弟の代わりに、荷物取りに来たんです』だってさ」
光の言葉に何も言えない情けないあたし。
彼女にそんなことを言われたあの時の光の気持ちは、きっとあたしには想像もつかないくらい悲しかったに違いない。