雨の恋路
咲希さんの憎悪の詰まった瞳はあたしに向けられ、あたしはその場から動くことが出来ないでいた。
あたしに未だ敵意を露わにして近づこうとする咲希さんを、光が必死に食い止める。
あたしはただ……黙って見ることしか出来ないでいた。
「咲希!落ち着け!」
「あの子が、あの子が…-!」
「落ち着けよっ!」
「五月蠅い!離して!」
パンッ!
大きな音が、大きく響いた。
あたしでもなく、光でもない。
だけど、頬を叩かれたのは確実に咲希さんで。
「落ち着け、咲希」
目の前に現れた人物。
それは紛れもなくりっくんだった。
「陸……」
頬を叩かれた痛み、そして突然現れたりっくんに、咲希さんは冷静さを取り戻したようだった。
「近所迷惑も考えろ。こんな朝っぱらから……」
「わりぃ……、兄貴」
光がそう呟くと、りっくんは気まずそうに振り返った。