雨の恋路
聞こえたのは「キャッ!」という叫び声や、「どうしたの?」っていう野次馬の声。
そして、
「雨美!」
と叫ぶ、愛しいあの人の声。
夢かと思った。
もう一度あたしの名前を呼んでくれるなんて思わなかったから。
だけど、あたしの意識はもう途切れる寸前。
これは、あたしが作った
ただの願望なのかもしれない。
だけど優しく抱きしめられたその感覚を、あたしに向かって何度も「雨美!」って叫ぶ愛しいあの人の姿を、夢だなんて思いたくなかったから…-
夢で良い、夢で良いよ。
光があたしの名を呼んでくれるなら、なんだって良い。
「ひ、かる…。ごめ……」
嘘なの、
全部…嘘なの。
疲れてなんてない。
嫌になんてなってない。
他の人と幸せになんか、
なって欲しくないの。
「光が……だいすきなの……」
だから、嫌だよ。
行っちゃ…嫌だよ。
ちゃんと話すから。
もう何も隠さないから。
頬に伝った涙は、本物だった。
それを拭った優しい手は、
やっぱりあたしの夢だったのかな?
その瞬間、あたしの意識はプツン、と途絶えた―