雨の恋路
「そ、そうなんですか…」
そう呟くと、先生は書く手を一瞬止め、体をあたしの方へと向けた。
「城田君ね、あなたの手を離さなかったのよ?」
「え?」
フフッと優しい笑みで笑った先生はまた何かを書き出し、そして書きながら話し出した。
「授業が始まるから戻りなさいって言っても、私が見てるからって何度言っても、あなたの手を離そうとはしなかった」
嘘……光が?
あたしは、もう既に冷たくなってしまった手をゆっくりと胸へと持ってきた。
光が?本当に?
あたしを心配してくれていた?
「浜本さんが起きるほんの少し前に私が無理矢理帰したんだけど……。ごめんなさいね。起きるなんて思わなかったから」
「い、いえ!気にしないで下さい…」
「城田君、ずっとあなたの手握りながら雨美、雨美って何度も呼んでたねよ?」
そう言った瞬間書きおわったのか、先生はゆっくり椅子から立ち上がりその紙をあたしに渡す。
「寝不足ね。これを担任に提出しなさい」
「はい」
「それと寝不足の理由は城田君?喧嘩でもしたの?早く仲直りしちゃいなさいよ。城田君なら分かってくれるわ」
ニコッと笑った先生に、「ありがとうございました」と言うと急いで保健室を出た。
出た瞬間、
涙が頬を伝う。
分かんない…分かんないよ。
光の本当の気持ちは?想いは?
今、何処にあるの?
あたしはまだ……
夢を望んで良いの?