ロストマーブルズ
「ビー玉探してたんでしょ。家の近所に百均の店があったから、ついでだったし買ってきた」

「えっ、俺に?」

 リルは頷き、さらにジョーイに接近する。そして拳骨を突き出すように力強くビー玉を差し出した。

 ジョーイは受け取れと脅迫に似たものを感じ、それを恐々手にした。

「ありがと。そうだ、金払わなくっちゃな。もちろん消費税もつけたして」

「とても細かいんですね。でも、いらない。私からのプレゼント。その代わり、一緒に帰ろう」

「……ああ」

 先に物を貰うと断れない。
 リルに圧倒される形でジョーイは肩を並べて歩く羽目になった。
 お互い暗く、話も弾むこともなく、足並みだけは揃う。

「私、変でしょ」

 リルが唐突に話し出した。

 そう思っていてもジョーイはハイと返事できず、曖昧に声を濁らしたような息を吐き出した。

 リルはそれでも表情を変えずに話し続ける。

「私、昔はちゃんと笑える子だったんだよ。近所にね、私のことアスカって呼ぶお兄ちゃんがいて、それが私の本当の名前だと思っていたみたい」

 ジョーイはただ聞いていた。
 アスカという響きが脳裏の中の何かに触れながら、耳だけは研ぎ澄まされていた。
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