ロストマーブルズ
 リルはジョーイとは反対方面の電車に先に乗っていった。
 電車の扉の窓から、向かいのホームにいるジョーイに向かって手を振っていた。

 その時、外から窓に入り込んだ光の屈折なのか彼女がうっすらと微笑んでいたように見えた。
 いや、実際に微笑んでいたに違いないとジョーイはそう思うことにした。

 そして応えるように指が伸びきってない手のひらをちらっと一度見せてやった。
 リルが乗った電車はゆっくりと動き、次第に駅のホームを去っていった。

 電車を待つ暫くの間、ジョーイはホームに同じ制服を来た学生たちをウォッチングする。

 音楽を聴く者、本を読む者、ぼーっとただ立っている者、友達と楽しく会話をしている者、それからいちゃついているカップルたち。
 これが高校生活の日常の一コマ。

(俺は周りからどう見られているのだろう)

 ふと自分のことを気にしてみた。
 そう思うようになったのも、リルという自分によく似た人間を見たからだろうか。

 トラウマとコンプレックスを抱いた笑わない少女。
 見ていて痛々しく思ったのも事実だった。

 自分のことを少しだけ気にするようになれたのも、アスカの記憶に拘るなと自覚した第一歩なのかもしれない。

 今度のカウンセリングで早川真須美が自分の変化に少しでも気がつくだろうか。
 そう思うのも不思議だったが、明らかにジョーイの中で何かが違ってきたように思えた。
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