ロストマーブルズ
 我に返ったとき、ジョーイは流れの速い人ごみの中で、障害物になっていた。
 ひっきりなしにすれ違う人々に圧倒され、自分を見失い放心状態になっていた。

「ジョーイ!」

 名前を呼ばれ、今度は自分が後ろから肩を叩かれる。
 そして振り向けば、詩織が、目を細めて微笑んでいた。

「こんなところに突っ立って何をしてるの。あっ、もしかして私を待っててくれたとか」

「そ、そんなんじゃない」

「あっ、ほらほら、あそこ見てごらん。改札口の向こう側。あそこからジョーイのこと見てる女の子たちがいるでしょ。あの子達、あなたのファンクラブの子よ」

「えっ?」

 改札口を出たところ、端の方で女生徒達がジョーイを見ていた。
 詩織がジョーイの腕を上に取り左右に振ると、彼女たちは飛び上がってキャーと露骨な態度を取っていた。

「おい、何すんだよ」
 捉まれていた自分の腕を振り解いた。

「これで分かったでしょ。ファンクラブの存在」

「そんなことどうでもいいよ」
 ジョーイは不機嫌な顔を露骨に見せた。

「また怒らしちゃったかな」
 詩織はそれでも懲りずに笑っていた。

 こいつも変な奴だとジョーイは眉間を寄せて視線をぶつける。

「ちょっと、詩織!」
 また新たな登場人物がやってきた。

「急に走って行くから、びっくりするじゃない」

「ごめん、つい愛しの王子さまを見つけちゃって。それがこの人」

 両肩を掴まれてジョーイは詩織に押し出された。

 全く知らない女性が、顔を突き出してジョーイを上から下まで吟味してじろじろ見つめる。

「えー、この人が詩織の彼なの?」
「違う!」

 ジョーイは強く否定し、礼儀もわきまえずにさっさとその場を去った。
 その態度は相手を嫌な気持ちにさせた。

「ちょっとジョーイ。ごめん、瑞菜。先に帰ってて。ほんとごめんね」

 詩織が手を合わせ謝罪をする姿を不満げな顔つきで見下ろすが、渋々受け入れ、瑞菜と呼ばれた女生徒は帰っていった。

 ジョーイを追いかけ、詩織は彼の腕を力が入り過ぎるくらいにむぎゅっと掴んだ。
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