ロストマーブルズ

 ジョーイが家の鍵を開け、ドアノブのレバーに手をかけた時、一瞬動きが止まった。
 ギーの言葉が頭によぎっていた。

『真相を知るチャンスかもな』

 母親が出張でいないことを知っていたギー。
 母親が居ないことが真相を知るチャンスとは一体何のことだろうか。

 ジョーイは邪念を捨てるように、ドアを力強く開けて家の中に入った。

 まだトニーは帰ってきていない。

 誰もいない静まり返った部屋。
 すっかり薄暗く、視界のはっきりしない靄の中にいる気分だった。

 靴を脱ぎ、二階の自分の部屋に行こうと階段を上りかけたときだった。
 手すりに手をかけたまま体は停止する。
 ギーの言葉が更なる靄を作り、頭の中まで入り込んできた。
 それを取り除きたいがために、ジョーイは一階にある母親の部屋に向かった。

 引きドアをスライドさせるとそこだけ唯一畳がある和室だった。

 電気をつけると、箪笥や小さいちゃぶ台があるだけの飾り気のないシンプルな空間がくっきり現れる。

 普段も入ることなくいつも素通りな場所だが、ギーの言葉で突然に秘密が隠されているように思えてならなかった。

 母親といえども、黙って留守中に部屋に入るのは気が引けたが、ジョーイは息を飲み辺りを見回す。

 まず箪笥の引き出しを開けると泥棒になったような気分がした。
 やはり気が引けてすぐに閉めた。

 箪笥の上には自分と母親が写った数年前の写真が、木でできたフレームの中に入れて飾られていた。

 写真に写っている母親と目が合うと、益々良心の呵責が強くなる。
 なんとも後ろめたい気分でやるせなかった。

 今度は押入れの前に立ち、躊躇いながら襖をスライドさせた。
 上の段は布団があり、下の段には収納入れのようなものが入っていた。

 反対側もチェックするが、段ボール箱やジャンクっぽいものが押し込められているだけで、変わったものはなさそうだった。

 その中の箱に手を出し、軽く手前に引いてみるが、あまりにもそれは容易い動作だった。

 もし隠したいことがあるのなら、こんな分かりやすいところに無造作に置いておくだろうか。
 ジョーイは中身を確かめることもなく元の位置に戻し、押入れの襖をそっと閉めた。
 結局後味が悪くなっただけで終わってしまった。

 そして箪笥の上に飾ってあった写真立てを手に取り、母親には直接言えない分、写真に向かって「ごめん」と謝った。

 それをまた戻そうと置いた時、ばたっと後ろに倒れてしまった。

 後ろの支えの部分をしっかりと固定しようと手にとったとき、その部分が弾みでパラッと外れてしまい、中の写真がずれてしまう。

 きっちりきれいにはめ込もうと、一度裏を取り除いたときだった。
 写真が二枚入っていたことに気がつく。
 後ろに隠れていた写真を、ジョーイは手にとって見つめた。
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