ロストマーブルズ
 ギーの登場で、この日は大豆のことを考えながら夕飯を作る羽目になってしまった。

 玄関先でにぎやかな声がすると、トニーがダイニングエリアに現れた。

「なかなかすぐに帰れなくてさ、すっかり遅くなっちゃった。おっ、嬉しいね。ご飯がすでにできてるなんて。いい妻を持ったよ」

「馬鹿! 早く手を洗って着替えて来い」

「でも、なんかすごくヘルシーな献立だな。豆腐料理? 豆料理?」

 ジョーイは大豆のことを考えすぎてわざわざそれにまつわる食材を買ってきて作ったのだった。

 冷奴、厚揚げ、アゲの入った味噌汁、納豆、豆の煮付け、豆サラダがテーブルに置かれていた。全て大豆に関係している。

「不服なら食うな」
「いえ、そんなことはありません」

 トニーは急いで服を着替えて食卓についた。
 物足りない気もしたが、空腹が食を進ませ、ガツガツと食べだす。
 しかし、納豆だけは無理だと、ジョーイの方へ押しやった。

「なあ、トニー、大豆と聞いたら何を想像する?」

「は? そりゃ、豆腐、醤油、味噌、豆乳…… それから、豆まき? 鬼、節分! でもなんでそんなこと聞くんだ」

「大豆見てたら、奥深いなと……」

 ちらりとトニーに目をやり、ジョーイは反応を気にしていた。

「時々変なことに拘る癖がある奴だと思っていたが、今度は大豆がテーマかい。それで今日の夕飯がこれなのか」

「俺、そんなに変なことに拘ってるか?」

「ああ、ジョーイの拘りは異常だぞ。例えば風呂場のシャンプーの位置。俺が動かすと必ず元に戻すだろ。しかも同じ向きにして。本を並べる順序もそう。必ず元の本棚の位置に戻す。俺なんてたくさんありすぎて順序なんて覚えてないから適当に入れても、ジョーイは並べ替えるんだよな」

「そんなの普通じゃないか。きっちりと整理整頓してるだけだよ。お前がだらしないだけだ」

「市販の食べ物でもそう。原材料が何かきっちり見る。今回の大豆もヘルシーとかの文句に煽られて拘ってるんだろ。何かと世界でも大豆ブームだからね。それとも他に何か理由があるのかい?」

 拘ってると言われむっとしそうになったが、ジョーイにはトニーが別の方向で捉えてくれている方が都合がよかったので、そういうことにしておいた。
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