ロストマーブルズ
「その通り、大豆はヘルシーだ」とジョーイは箸で煮豆を一粒つまんだ。

「そりゃ、繊維質、植物性たんぱく質、イソフラボンとか体にいいもの一杯詰まってるのは分かってるけど、今日はこれでいいとしても、毎日これじゃ俺は嫌だからね」

「イソフラボン……」

「どうした、まだ何か拘ってるのか? もしかしてダイエットとか更年期障害とかいうなよ」

「お前よくそんなことまで知ってるな。しかし俺がそんなことがあるわけないだろ」

「だったら大豆の何に拘ってるんだよ」

 トニーは夕食に少し不服ながら、空腹を満たすためにひたすら食べていた。
 ジョーイはその後何も言わずに、味噌汁をずずーっとすすった。

「あっ、そうだ。今日キノに会ったぞ」

 ジョーイの口から味噌汁が吹き出そうになる。

「おい、汚いじゃないか。気をつけろ」

「どこで、会ったんだ」

「英会話ボランティアで一緒だった」

「えっ?」

「俺も、彼女を見たとき、思わず『オーマイーガーッド』だった。教室では個人的に話すことができなくて、挨拶するだけで終わったんだけど、その後一緒に帰ろうとしたら、誰かが迎えに来てるからっていって急いで帰っていった。そしたら本当に車に乗ったとこ見ちまったよ。誰が運転してるか分からなかったけど、ありゃ、男だな」

 ジョーイは言葉を失ったまま、トニーを見ていた。

「やっぱりハリウッド女優だけあって、周りは派手なんだろうか。益々興味湧いちゃうね。ん? どうしたジョーイ。驚いた顔して。やっぱりお前も気になるんだろ。ジョーイにしては女に興味を持つのは珍しいけど、キノは不思議なことやるだけに特別だよな」

「特別……」

 ジョーイはその言葉を繰り返すと、特別な重みを感じて体が緊張していた。

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