ロストマーブルズ
「いや、早川真須美、俺の精神科医からだった。明日学校終わってから会えないかって」

 トニーはカウンセリングのことについては、気を遣う一面を持っている。
 精神的な問題が含まれるので、触れてはいけない話題とでも思ってるのか、これを話すと受け流すところがあった。

「そっか、大変だな。じゃあボランティアはまた今度一緒に行こうぜ。明日は遅くなるのか? まさかそのままお泊りってことには……」

「馬鹿!」

「冗談だよ。まあそれでも俺は気にしないぜ」

 トニーは笑いながら、用が済んだとばかりにソファーに座りこんだ。
 リモコンを持って番組をさりげなく変えている。
 そこには重い話を、無理に軽くしようとしているような、心遣いがあったように思えた。

 知りたいことはとことん追求してくるが、ジョーイのカウンセリングのような繊細な領域には、一切かかわろうとしない部分は一目置くところなのかもしれない。

 ジョーイの過去については、トニーには一度も話したことはないが、時々異様に気を遣う場面があるのは、母親のサクラから何か聞いているのではと、ジョーイは感じていた。

 自分のような癖のあるものと仲良くできるのは、トニーくらいなものだと、ジョーイも認めるところがあるが、一緒に住んでる以上、トニーは結局、人一倍気を遣っているのだろう。

 時々腹を割って、好きなこと言い合えば喧嘩になるところ、トニーは絶対そこまではしない。
 女に対してはだらしないが、男として見習うべきところも具え持っていた。

 それだけに嘘をつくのは心苦しいが、この件に関しては人に知られてはいけないと、強く何かが耳打ちするような感覚を覚える。

 第六感とでもいうのだろうか。

 それはとても危険な香りがしていた。
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